藻澄川 3

「今帰った」
 
慶次が玄関を開けると、家の奥の方からぶっきらぼうな声が返ってきた
 
「慶次、頼まれたものはちゃんと買ってきたんだろうね」
 
「あぁ、多分ね」
 
「多分ってなんだよ
無かったらもう一度買いに行かせるぞ」
 
  
慶次はそのまま部屋の奥へと進んでいく
 
「姉ちゃん、俺にもアイス」
 
「勝手に探しな
私はお前のお守じゃないんだよ」
 
 
 
冷蔵庫を開けると、ひんやりとした冷気が
けいじにまとわりついていた熱を吸い取っていった
 
アイスを探し、部屋のソファーでくつろぐ
 
そのままぼんやりしていると、
声の主が入ってきた
 
茶色の長髪を腰まで伸ばしている、25.6歳くらいの女性だ

「慶次、買ってきたものは?」
 
慶次は振り返りもせず、床に置かれた買い物袋を指さします
 
「あんたねえ、少しはちゃんとしなさいよ
もう働いて自分でお金稼げる年なんだから、ここから追い出してもいいんだよ」
 
「迎え火はいつやる?」
 
「暗くなったら!
それまでに自分の部屋位掃除しときなさいよ
あと、自分が食べた分の食器も自分で洗っておいて!」
 
慶次はあいまいな返事で返すと、最後のアイスの一かけらを頬張り
そのまま虚空を見つめ続けた
 
 
「私はこのままバイトに行くけど、
もし私が帰ってくる前までに部屋と食器が片付いてなかったら
覚えときなよ」

 
そのまま荒々しく部屋のドアを閉めると、
玄関が閉まり、遠くに遠ざかっていく足音が慶次には聞こえた
 
 
エアコンから出る冷気が、
ソファでだらける慶次を冷やしていく
  
やがて、襲ってくる睡魔に耐え切れず
慶次は眠っていった