ピアノの家 1章 3

ドアが空いた

すると、さっきまで一人でおもちゃのピアノをいじっていた少女は
急に顔を輝かせて玄関から入ってくる父親に駆け寄った
  
  
  

 
「おかえり、パパ」
 
「ただいま、真綾」
 
 
 
 

父親は荷物を玄関へ置くと、
そのまま自分の娘を抱き上げ頬にキスをした
 
 
「いい子にしてたかい?」
 
 
それから、奥の部屋に電気がついてないことに気づいたようだった
 
  
「また家族ごっこで遊んでいたのか」
  
「そうだよ」
  
「そうかい、じゃあパパも混ぜてもらおうかな」
 
 
 
娘を抱きかかえたまま、リビングにやってきた父親は
そのまま娘をソファーにおろした
  
 
「僕にも聴かせて、今日はどの子がここにはいたのかな」
 
   
真綾は小さな人形を持ってきて
それを周りに並べ始めた

「この子はね、花蓮っていうのよ
可愛い名前でしょ
花のかに、難しいはすの漢字で、そう読むのよ
いい響きよね

この子はお花を摘むのが大好きで、将来はお花屋さんになるのが夢なの

それでね、こっちの子は、、、、」
 
 
 
とりとめのない会話、空想の友達ごっこ、部屋いっぱいを満たしていく夕陽の光
それは二人にとってかけがえのない時間だった
 
 
 
父親は、自分の娘がごっこ遊びを熱心に嬉しそうに話すのをじっと眺めていた
 
 
 
もうすぐ10歳になるという娘は、
母親がいない家庭にも全くめげることのなく毎日を幸せそうに暮らしている
 
おそらく真綾は母親というのがどんなものなのか全く想像もつかないのであろう
 
 
  
それでも、彼は
自分の娘の中に亡き自分の妻の姿を見出していた
 
 
考え事をする際に見せる、首をかしげる癖とか
空想的でよく一人でどこか虚空を眺めている時のまなざしとか
  
 
それらは全て母親から受け継いだものだった
  
  

そして、彼は、妻のその空想的な性格に惹かれたのだった
 
 
 

「、、、、、

それでね、私もこの子のためにピアノを聞かせてあげたかったの
でも、うちはマンションだから諦めるしかないよね、、、」
  
  
  
「そう、、、真綾、
そのことなんだけどね
いい知らせがあるんだ」
   
  
   
娘は父親の方を振り向きました
   
  
「実はね、、、
2人で引っ越すことにしたよ
新しい家に」
   
   
少女はしばらく考え込んでいた
   
「引っ越すの?どこに?」
   
「大きな山の近くさ
真綾は自然が大好きだもんね」
    
「大好きよ!
いつも森には妖精さんや見たこともない生物や不思議なことがないかとワクワクさせられるわ」

「そこへ引っ越したらさ、ピアノを買おう
真綾がいつでもピアノを演奏できるようにね」

「ピアノを買ってくれるの?」

少女は喜びを込めた大声で聞き返します

「ありがとう!パパ!
大好きよ」

2人はしばらくそのまま抱き合ったままでした