紡がれるストーリー

 

この石は昔とある男性でした

その男性は月を見るのが大好きで、
毎晩のように広い草原に独り座り込んでは
飽きることなく毎日変わり続ける月の形を眺めていたのでした

それが男性の日課でした

ある日のこと、
男性がいつものように月を眺めていると
月が男性に話しかけてきました

男性は答えました
自らの思いやつらさや夢を

月は黙って聞いたまま、
男性に寄り添っていました


そしてそのまま永い年月が経ち
男性は石になっていたのでした

それでもこの石は、毎日のように月を眺め続けています

遠い昔に別れてしまった
愛しい恋人に接するように

その淡い光を全身に浴びながら

 

 

 

 

この木の枝には、遠い昔とても仲の良い友人がいました

それと木の枝は
毎日のようにたわいのない会話をしていました

でもある時
それは急に木の枝のもとを去りました

食べられてしまったのか
壊れてしまったのか
逃げてしまったのか

わかりません


その以来、この枝はずっと独りです
友人もいません
話し相手もいません

大雨で流されてしまい、溺れそうになった時も
小さな子供に取り上げられ、たたきつけられて半分になってしまった時も

ずっとそのままでした


でも、よく耳を澄ましてみると
話し声が聞こえるかもしれませんよ

それはとても小さい声ですけど
聞いてくれる人を待ち続けています

 

 

 

 

この植物
実は昔人間の一部だったんです

愛情に満たされて育てられた小さな女の子でした

成長して、通りがかる誰もが見返すほどの美しい女性になったこの女性は
自分を大切にしてくれる男の人に出会い、求婚され、結婚し、
子供を3人もうけました

愛情ある家庭を作り上げた彼女は
自分の子供達が家庭を作り幸せになるのを見届け、夫に先立たれ、
やがて自らも死んで自然へとかえっていきました


きっと今でも、自分の大切な人たちを求めて
思い出に心をはせているでしょう

あなたにも聞こえてきませんか

 

  

昔ここには僕の家があったんです

妻とは僕が14歳の時に見合い結婚しました
美しく、気品があり、とてもよい妻でした

かわいい子供と年老いた母親父親の世話をしながら
つつまじく幸せに暮らしていました

ここで私は息をして、死んでいきました

今は自然にかえっていますが、
ここで過ごした日々のことは決して忘れません


きっとまだどこかに
家族の響きが残っているでしょう

 

 

 

 

大昔、人が文字を知る前の大昔の頃
立派な男がいました

彼は自らの部族を率いて勇猛果敢に戦いました
でも、戦いの中で命を落としました

残された部族の人たちはその偉大さを称えて、
彼を丁重に葬りました

その男のお墓に小さく生えていた木の芽が大きくなり、
男の体を肥しにしてここまで大きく成長していきました

今ではその男の代わりに
この樹木が辺りを見渡しています

 

 

  

 

この影、昔は生身の人間だったのです

親がいて、友人がいて、大切な人がいました

だけど戦争ですべてを失った彼は、
悲しみのあまり、地面に溶けて影になってしまいました

今でも、自らの悲しみを大地に向って
つぶやいています