1
わたし、井原葵
どこにでもいる普通の15歳
でも、秘密があって
それは私、、、、本当は魔法少女なの
今日も仲間と一緒に、
町の平和を守るため悪い奴らと戦うの
でもね、もうひとつ秘密があるんだ
それはね、、、
本当は俺、男なんだよーー!
ていうか、なんで俺(♂)が魔法少女なんてやらないといけないんだよ!
いや、、理由はわかってる、、
すべてはあいつのせいだ
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10日程前、俺は家に帰ると
家に誰もいないことも確認してひそかに女装用の服を着た
はぁーーー、快感
なんで女の人の服ってこんなにわくわくするんだ
フリル着いててレースがきゅるんってなってて
テンションあがるわーー
でも、こんなこと誰にも打ち明けられない、、
俺一人で楽しむんだ
でも突然、それは現れた
白い服を着た女の子がいつの間にか部屋にいた
「はーいはいはーーい!
こんにちは~、かわいいお嬢さん
はじめまして、私天使のつーちゃんと言います!
よろしくね~」
え、、何これ
「突然ですが、あなた魔法少女になりませんか!」
、、、え?、、、
いや、、あの、、魔法少女って、、あの魔法少女?
「そー、あの魔法少女です
すべての女子の憧れ!
かわいい娘の味方の魔法少女!
魔法少女なりませんかー
今ならなんと入会特典もありますよー」
なんでキャッチセールス風なんだ、、、
「どうですかー、お嬢さん
ファンの方たちに見守られてちやほやされますよー」
そしてしつこい、、
大阪の客引き並みにしつこい
「お嬢さん、やりましょ~
やりたいですよねー
やりませんか、やりましょ~」
気づけばぐいぐいと部屋の隅に追いつめられていく
まずい、、このままではこの訳わからん自称つーちゃんに押し切られてしまう
というか、顔面いっぱいに迫ってくるこの女が不快、、
こうなったら、、、
こうなったらもう、、、
「無理、、できない」
「だって、、、、だって、、」
「ほんとは俺、、、、男なんだーーー!!!」
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痛いほどの沈黙
「いやー、お嬢さん、冗談お上手ですね~
いいですよ~、かわいくて冗談もお上手で!
これならお茶の間の人気者間違いなしです」
「いや、、、ほんとに、、ほんとに男なんだって、、」
「何言ってんですか~
どんなに口では言っても、少し確かめれば、、」
そう言うと、その自称天使は葵のスカートに手をかけた
「ちょ、、、待っ、、、」
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ずり落ちるスカート
痛い沈黙
確かにある「それ」
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「な?分かったろ?
俺は男なんだよ
魔法少女を探してるんなら悪いけど他をあたってくれ」
葵はいそいそとスカートを穿きなおす
ふとみると、つーちゃんは部屋の隅を眺めてじっとしている
さっきまでのテンションが嘘のようだ
強くしすぎたか、、
かわいそうなことしたかも
ふ、、ふふふ、、、ふふふふふふ、、、、、
なんだ?この不気味な笑いは?
すると突然つーちゃんは急に葵の上に飛び乗って押し倒してきた
「な、、何すん、、、」
「うるせーよ!お前の都合なんか知ったことか!
こちとらピンチなんだよ!
今月中に新しい魔法少女見つけないと給料下げられんだよ!
給料70%カットなんだよ!
天使って給料でてんのか
しかもかなりブラック
「お前が男?関係ないよそんなの!
給料下げられたら私とペットのハムスター路頭に迷うじゃねーか」
「いや、知らねーよ ペットのハムスターなんか
ていうか、さっきまでのセールス口調はどうしたんだよ」
「だーまれ、弱みを握ってしまえばこっちのもんだよ」
「弱み?」
「もしあんたが魔法少女やらないっていうんなら、あんたの女装癖まわりにばらしてやるからな!」
「おま、、は?」
「いいって、どーせばれやしねーーって
あんた部屋で一人〈葵のかわい子ぶりっ子笑顔体操〉とかやってたじゃねーか」
「おま、、、どうしてそれを、、」
「動画撮った」
「てめーーーーーーー!!!」
「いいからやれ!
もしあんたが逃げたりしたらあんたの〈かわい子ぶりっ子笑顔体操〉の動画、
名前と住所付きでネットで拡散してやるからな!」
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そんなんでほとんど強制の形で始まった葵(♂)の魔法少女生活
果たして葵は悪い奴らと天使相手に
町の平和と自身の女装癖の秘密を守り切れるのか!
葵の世間体をかけた戦いが今、幕を開ける!
2
俺の名前は井原葵
魔法少女(♂)だ
魔法少女(♂)であることと女装する趣味があることは誰も知らない秘密だ
唯一の例外を除いて、、、
俺の部屋の一番陽当たりのいい場所に陣取って、
そいつはたくさん積みあがった手紙を読み漁っていた
上から下まで汚れ一つない雪のような白で統一されたワンピースと
そこから伸びるすらっとした細めの白い手足は、
通りがかった人から見たら12、3歳の可愛げのある女の子としか見えないであろう
茶色がかった短めの髪の毛は
窓から射す太陽の光を反射してきらきらと黄金色に輝き、
少し大きめの瞳とラフな格好と相まって
快活な印象を見る人に与えないこともない
しかし、見た目に騙されてはいけない
この女(自称天使)は葵の生活を恐怖で支配している悪女なのだ
「ほらほら、見なよ!
これ全部あんた宛てのファンレターだよ
読んでみな」
「、、、、、いい」
「〈葵ちゃんの可愛らしく闘う姿に感動しました!
応援しています、頑張ってください〉
<娘に誘われて葵ちゃんのファンになりました!
可愛くて一目ぼれです>
人気者だなー、葵ちゃんも」
「、、きも、、
娘がいるってことは結婚してんだろ
魔法少女になんで熱中すんだよ
奥さんに殺されんだろ
好きでもないファンに無理やり迫られるアイドルの気持ちが分かったわ」
「まあ、そういうな!
こんなにたくさんの人があんたを応援してんだよ!
もてもてじゃないか!」
「、、、、好きでやってんじゃねーよ」
「あん?女装中の動画ネットにあげるぞ」
「大変申し訳ございません、
たくさんのファンの方たちに応援されて私は幸せ者です
すべては天使のつーちゃん様のおかげです」
「わかれば良い!
自分の分をわきまえなさい」
そう言うとつーちゃんは、
葵宛てのファンレターをまた嬉しそうに読み始めた
「、、、なんでお前が俺宛てのファンレターにそんなに嬉しそうなんだよ」
「担当する魔法少女の人気は私の人気よ
手塩にかけて育てた子を皆が好きになれば、私だって嬉しいわよ」
「、、、、手塩にかけて育てた?」
「何か?」
「イエ、ナンデモアリマセン
スベテハツーチャンサマサマノオカゲデス」
葵は部屋の片隅で、ごろっと床の上に寝転がった
窓からはどこまでも深い青空が広がっている
今日は雲一つない快晴だ
まるで海の奥底まで沈んでいきそうな程深いその青に
葵の思考は沈んでいく
「まー、それでも私も最初は
あんたみたいな可愛らしい姿と顔立ちの子に
まさかついてるもんついてるだなんて思いもしなかったわ」
「ついてて悪かったな
ていうか、なんで男の俺なんだよ
今からでも女の子の中から魔法少女を探せばいいだろ」
「魔法少女は誰でもなれるもんじゃないのよ
ある程度の素質がないとだめなの
霊感が強かったり、目には見えないその場の微細なニュアンスを読み取る力が必要なの
大体において感覚が鋭いのは女の人、それも子供のうちだけのことが多い
だから〈魔法少女〉と呼ぶわけね
極まれにだけど、あんたのような男の子でも素質に恵まれることはあるようよ
まー、私は初めて見たけどね」
「なるほど、、素質がないとだめなんだな
嬉しいような、残念なような」
「素質が必要だから慢性的に人手不足で、
私のような可愛らしい天使達が常に新しい魔法少女を探す羽目になってるのよ」
「、、、、可愛らしい?」
「何か?」
「ツーチャンサマハカワイラシイビショウジョデゴザイマス」
3
薄暗くなりはじめた路地裏に1人の男が立っていた
年は10代の中頃であろうか
男子にしては長めの髪を後ろで結わえてポニーテールにしている
中性的な顔立ちと細めの体格のこの少年は
ワイシャツの胸元のボタンをはずし、崩れた形でシャツを着ている
鋭い眉と少し吊り上がった目、細長くとがった顎とあいまって
きつめの印象を見る人に与えるかもしれない
その外見を見ただけでは誰も想像できないだろう
この一見都会に住み慣れた若者が、、、
ごりごりの女装癖の持ち主で魔法少女(♂)であることなど
「煙草なんか吸ってもいいのかしら、未成年君?」
いつの間にか少年の隣に立っていた12,3歳ほどの少女が話しかけた
「ほっとけよ、別にいいだろ
誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだから」
「この不良少年、、いや、不良少女かしら」
「、、、張り倒すぞ、お前」
「えーーーん、こわいわおそろしいわ
こんなかわいい女の子をいじめるなんて」
見え透いたぶりっ子の演技に
葵は言い返す気力も出ず、ただぼんやりと天を仰いだ
葵の生活は、女装癖の動画をネタにゆするこの自称天使のつーちゃんに支配されているのだ
「ただあんた、あまり煙草ばっかり吸うと身長伸びなくなるわよ
まだ成長期なんだから」
「これ以上身長伸びてたまるかよ」
「まああんたは身長高い方だからね
女にももてるでしょ?」
「まあそこそこかな」
「へえ、男の人だけでなく女の人からももてるなんて羨ましいわね」
「さっきからお前ドエスかよ」
「私はエスじゃないわよ!
ただ人をいじめて苦しんでる顔を見るのが楽しいだけよ!」
「それをどエスを呼ぶんだよ」
「ま、そんな漫才より本題よ!
男の子が1人、2日前から行方不明になってるの!
本部が使い魔を派遣したけど、微弱の魔力が察知されたわ
おそらく地獄蜘蛛ね
あんたにはその蜘蛛の魔力を察知して
男の子の居場所を突き止め救出してほしいの
もしかすると駆除が必要になるかもしれないけれど、
あくまで目的は救出よ!
人命第一!
さ、行くわよ!」