薄暗い、物音ひとつしないマンションの1室で
その少女は父親が帰ってくるのを待っていた
音の出ないおもちゃのピアノを弾きながら
空想の音を出して遊んでいたのだ
母を知らず、ほとんどの人生を父と過ごしたその少女にとって
家族とはつまり父親であった
しかし父親は働かなければならず、あまり家にいることができなかったので
その少女はほとんどの時間を一人で過ごさねばならなかったのだ
それがあまりにも当たり前のことであったので
それを悲しいとも辛いとも、彼女は感じることはできなかった
ただ、唯一確かなことは
父と一緒に過ごしているとき父親が本当に幸せそうな表情でこちらを見てくるということ、
そしてそれを見て、自分自身も心満たされていくということであった
だから少女は、たった1人で父親の帰りを待ちつつも
まったくつらくはなく、いつまでも待ち続けることができたのだ